月の記録 第48話


テロリストの戦艦内に囚われていた首脳と側近たちは、一つの部屋に集められていた。広いその部屋には椅子が並べられており、正面の壁には巨大なモニターが取り付けられていた。モニターの前には1脚だけこちらを向く椅子が置かれている。今は誰も座っていないが、この状況であの席に座るのはテロリストぐらいだろう。

「この部屋は、一体何なんだね?」

オデュッセウスは、銃を突きつけているテロリストに尋ねたが、テロリストは答えることなく銃口を背中に押し付けた。彼らが口を利かず、武器を下ろすこともなく、こうして意志を伝えてくるということにはもう慣れた。なにせここに捕らえられて何日経ったか。最初は銃をつきつけられ、動揺し震えたが、四六時中この状態だと、多少の軽口だって叩けるぐらいには慣れてしまった。
グイグイと銃で押され、オデュッセウスは息を吐いた。

「わかったよ、そう押さないでくれないか。ルルーシュ、ナナリー、席につこうか。どうやら私たちの席はそこらしい」

オデュッセウスは、自分の大きな体を盾にするように、弟と妹をそれぞれの腕で支えながら歩いた。凡庸で従者が居なければ何も出来ず、こういう場面では怯えて過ごすと思われたオデュッセウスだったが、意外というべきか、やはり長男だったのだというべきか。弟と妹を守るため、矢面に立ってテロリストの相手をしていた。そんな姿に、長年オデュッセウスに仕えている従者でさえ驚いたものだ。
ナナリーを挟むようにルルーシュとオデュッセウスが席に着き、各国の首相もまたそれぞれの席についた。船内では殆ど自由はなく、各自の部屋に監禁されている状態のため、体調を崩し顔意が悪い者が多く、ここで最年少である中華連邦の天子など、自分一人で歩くのもままならず、従者の腕に抱かれてこの場へとやってきた。
スザクの父である日本の首相・枢木ゲンブも冴えない顔色ではあるが、しっかりとした足取りで指定された席へ向かっていた。
その姿を見ていたオデュッセウスは、チラリとルルーシュの方へ視線を向けるが、等のルルーシュは興味が無いのか疲れているのか、その瞼をおろしていた。ルルーシュは未だに自分の元騎士の親である枢木ゲンブと直接話をしたことはない。この機会に話をさせるべきではないか?とオデュッセウスは考えていたが、テロリストに囲まれている以上、無茶も出来ない。救助されてから考えるべき事だなと、その考えを頭の隅へと追いやった。
全ての国の当主が席に着くと、部屋の扉に施錠がされ、この広い部屋に銃火器を持ったテロリストと共に閉じ込められた形となった。一部の者たちは、それだけで体を震わせ、立ち上ろうとしたが、正面に設置されていたモニターに映像が映し出された事で、意識は扉から正面へと移った。
モニターには、この戦艦を取り囲むように展開している各国の軍隊の姿が映し出されており、助けが着ていたのだと喜びの声が上がった。窓も無く、外との通信手段が絶たれていたため、外で何が起きているのか、誰も知らなかったのだ。

「あれは、アヴァロン」
「アヴァロン?」

ナナリーの声に、オデュッセウスは首を傾げた。

「はい、こちら側、9時の方向の映像に映し出されているのはブリタニア軍で、その中心にある旗艦は、シュナイゼルお兄様が手掛けた最新鋭の戦艦・アヴァロンです。そしてこの布陣・・・コーネリアお姉さまも参加されていると思います」
「おお。シュナイゼルとコーネリアが」
「はい、もしかしたらお母様・・・マリアンヌ皇妃も今回の作戦に携わっているかもしれません」

コーネリアとシュナイゼルの婦人にしては一部納得の行かない部隊がある。あそこにああやって配置するのはマリアンヌぐらいだろう。

「もしそうなら心強い」

ナナリーの声は近くに座る者たちの耳にも届いていた。
ブリタニアが誇る最新鋭の戦艦。そして閃光のマリアンヌと呼ばれたかつて最強と呼ばれた騎士。ブリタニアが誇る最高の頭脳シュナイゼルと、常勝無敗を誇る戦女神コーネリア。今すぐに国一つ落とせそうな戦力をブリタニアは動かしていた。
これだけの兵力が集結しているのだ、自分たちは助かる。
オデュッセウスだけでは無い、各国首相も今までの緊張がとけたかのように安堵の笑みを浮かべたが、その顔はすぐに絶望へと変わった。

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